灼熱の魂【評価:74点】

灼熱の魂

あらすじ・概要

レバノン生まれでカナダ・ケベック州に移住した劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲『焼け焦げるたましい(原題:Incendies、火事)』(2003年) の映画化。ドゥニ・ヴィルヌーヴが脚色と監督を務めた。
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ケベック州に住む双子の姉弟ジャンヌとシモンは、亡くなった母親ナワルからの遺言を受け、未だ見ぬ彼らの父親と兄の存在を知る。そして遺言によりジャンヌは父親への手紙を、シモンは兄への手紙を託され、二人は中東の母親の故郷へ初めて足を踏み入れる。

タイトル 灼熱の魂
製作 2010年
原題 INCENDIES

製作国 カナダ/フランス
上映時間 117分
ジャンル ドラマ
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作 『焼け焦げるたましい』
ワジディ・ムアワッド
出演者 ルブナ・アザバル
メリッサ・デゾルモー=プーラン
マクシム・ゴーデット

評価

74点

レビュー

1+1=1の衝撃

それは僕の小学生の初めての算数のテストの時でした。
そこで衝撃的な事が起こりました。事もあろうことかその初めてのテストで0点を僕は取ってしまったのです。

小学生1年のテストですからもちろん「1+1=□」「5+2=□」といった問題です。
全部で10問ほどだったでしょうか?

もちろん他の皆は100点が当たり前のテストで僕だけ0点なのです。
その0点のテストが1人の同級生に見つかり大笑いされたのです。
その時の衝撃は今も忘れることができません。

さて本題に入りましょう。
物語は中東出身の母ナワルの死から始まる。
母より双子の姉弟ジャンヌとシモンに残された不思議な遺言。
「父と兄に会いなさい」
そこから数奇なる母と子の残酷で愛すべき運命が紐解かれていく。

テーマは「憎しみの連鎖を断つ赦し」

舞台はレバノン紛争をモデルにキリスト教とパレスチナを中心とするイスラムそして多数の宗教が交じり合う戦場。
多種多様の宗教や民族間の争い。それを包み込む母の愛という赦しの心。
まさにそれは天国と地獄を熱湯と氷水を一気にぶっかけられたような感覚に陥る。

壮絶な運命を母の愛を貫き通すゆえの真実の告白。
この物語はライフ・イズ・ビューティフルのように愛する子のために隠し事を墓場の中まで持っていく話ではない。
なのでこの映画はライフ・イズ・ビューティフルと対極的とも言えるだろう。

残酷であろうと真実を伝える親と残酷だからこそ嘘の世界を見せてあげる親。
しかしこの矛盾した行動には皮肉にもどちらも子を愛する心で溢れているのだ。

この作品の作家ワジディ・ムアワッドの経歴も壮絶だ。
ベトナム戦争のさなかに生まれ
子供時代はレバノン戦争に巻き込まれ
思春期にはイラン・イラク戦争と第一次インティファーダを体験し
大人になる頃にルワンダの虐殺を体験している。

ワジディは説く。罪悪感を与えたいのではなく平和に生きることの居心地の悪さを感じてほしい。
沢山の死を観てきたワジディは語る。
物語を伝える上で生きているものを居心地わるくさせるのでなければ死者への冒涜となってしまう。

日本のように私的幸福の多い国と集団的不幸が多い紛争国が交じる世の中を私達はどう同時に生きるか?
情報をシャットアウトとして自国の幸福に生きるか?
他国に情報網を広げ絶望に浸るか?
ワジディは問いかける。あなたはどちらを選択するだろう?

さてテストの話にもどしましょう。
僕はその悔しさで泣いてしまいました。
そして先生にこう言ったのです。「もう一度テストを受けさせてください」と。
もちろんその再テストは100点でした。今でもわかっていた計算式をすべて
間違え計算をしてしまった理由はわかりません。
ただ今でも覚えているのが再び0点を笑いに来たその同級生が100点のテスト用紙を
見て不思議な顔をしていた事。そして母のような優しい顔でにっこり笑い再テストを受けさせてくれた先生。
そこに日本の小さなある教室の出来事ではありますが憎しみの連鎖を断つ赦しを垣間見れたような気がしました。

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